東京地方裁判所 昭和57年(行ウ)120号 判決 1986年1月31日
東京都府中市天神町四丁目三番九号
原告
株式会社シヨウエイ
右代表者代表取締役
多田洲郷
右訴訟代理人弁護士
岩本公雄
同
塚本重雄
東京都府中市分梅町一丁目三一番地
被告
武蔵府中税務署長
五月女登
右指定代理人
高須要子
同
郷間弘司
同
上原竜男
同
鈴木徹
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告に対し、昭和五五年一二月二六日付でした原告の同五三年一一月から同五四年一〇月三一日までの事業年度分についての更正及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、電子機器の製造業を営み、被告から青色申告の承認処分を受けている会社であるが、昭和五四年一二月三一日被告に対し同五三年一一月一日から同五四年一〇月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)分法人税について別表一<1>記載のとおり確定申告をしたところ、被告は同五五年一二月二六日別表一<2>記載のとおり更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件決定」といい、本件更正とあわせて「本件処分」という。)をした。原告は、昭和五六年二月二六日国税不服審判所長に対し本件処分につき審査請求をしたが、右所長は同五七年六月一六日右審査請求を棄却する旨の裁決をした。
2 しかしながら、本件更正は原告の所得を過大に認定した違法があり、したがつて、本件決定も違法であるから、その各取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1の事実は認める。同2の主張は争う。
三 被告の主張
1 原告の本件事業年度分の所得金額は、次の(一)ないし(四)を加算し、(五)及び(六)を減算した四億三八七八万七二一六円である。
(一) 申告所得金額 二億三四二八万一八三六円
原告が昭和五四年一二月三一日付で行つた確定申告額である。
(二) 期末棚卸資産の計上もれ 二億〇三二四万〇八三七円
本件事業年度における期末棚卸資産の合計額五億三一二三万四二七五円と前記申告に係る期末棚卸資産の合計額三億二七九九万三四三八円との差額であり、その詳細は後記2記載のとおりである。
(三) 損金と認められない雑給 一一一万円
これは、原告がアルバイトに支払つた金額として一一一万円を雑給勘定に計上して損金の額に算入していたところ、原告の業務にアルバイトが従事していたことはなく、したがつて、右金額が支払われた事実もないので、右金額を否認し、これを所得金額に加算したものである。
(四) 損金と認められない交際費 一七九万八九九〇円
原告が原告の交際費として損金に計上していた金額の中には、原告の代表者多田洲郷が個人的に費消したもので交際費とは認められない金額があつたので、この金額を否認し、所得金額に加算したものである。
(五) 交際費損金不算入額の認容 一六三万一九〇七円
これは、右(四)の金額を本件事業年度の支出交際費等の額から減算したことに伴つて本件事業年度の交際費の損金不算入額を計算した結果、損金として認容されることとなつた金額である。
(六) 事業税損金算入額 一万二五四〇円
これは、前期事業年度の更正に係る事業税に相当する額を損金の額として認容したものである。
2 原告の期末棚卸資産については次のとおりである。
(一) 期末棚卸資産金額の計算方法
原告の経理部は、本件事業年度の期末棚卸しの調査のために、原告の資材部及び外注工場等に対し期末棚卸調査の実施を命じ、この命を受けた右資材部等がこれを実施して「棚卸表」と題する書面(以下「実地棚卸原票」という。)を作成し、これに基づいて経理部が、「棚卸表第一回目大略版昭和五四年一〇月三一日現在」と題する書類(以下「大略版棚卸表」という。)を作成していた。被告は、これら書類に基づいて以下のとおり、原告の期末棚卸資産の金額を計算した。
(二) 製品 一億九四五三万八七八八円
「製品」についての実地棚卸原票(二枚)及び大略版棚卸表によれば、本件事業年度末現在の「製品」の在庫の売却予定価格の合計金額は二億二八八六万九一六三円と記載されていたので、原告が申告に当たり棚卸製品の評価方法として採用した売価還元法及びこれに基づく売価還元率八五パーセントをいずれも相当と認め、右金額に右数値を乗じて一億九四五三万八七八八円と計算した。
(三) 商品 一二四〇万〇二三七円
「商品」についての実地棚卸原票(一五枚)及び大略版棚卸表によれば、原告の本件期末現在の「商品」の在庫の合計金額(原告が棚卸商品の評価方法として採用している最終仕入原価法により計算された金額)は一二四六万五〇〇〇円と記載されていたが、右棚卸原票の計算に一部誤りが認められ、六万四七六三円が過大に計上されていたのでこれを減算し、一二四〇万〇二三七円と計算した。
(四) 材料部品 三億二四二九万五二五〇円
原告の本件期末現在における「材料部品」の在庫の金額(原告が棚卸材料部品の評価方法として採用している最終仕入原価法により計算された金額)は四億〇九四三万四五一二円であるが、これは次の(1)ないし(4)を加算したものである。
(1) 「材料部品」についての実地棚卸原票(二八枚)の価額欄に記載の合計金額 三億七九三二万九五二六円
(2) 原告の協力工場である富士電装株式会社(以下「富士電装」という。)への預け在庫の金額 三四九万三三八五円
(3) 同じく株式会社大宙エレクトロニクス(以下「大宙エレクトロニクス」という。)への預け在庫の金額一七四〇万五九五九円
(4) 同じく共栄電子株式会社(以下「共栄電子」という。)への預け在庫の金額 九二〇万五六四二円
ところで、被告は、原告から、前記材料部品の在庫の合計金額四億〇九四三万四五一二円の中には、重複計上したものや陳腐化した商品あるいは不良品が含まれているとの申立てを受けたので、その明細を記載した書類の提出を求めたところ、原告から、昭和五五年七月二日に、右に関する帳簿書類が、同年九月二四日に確認書がそれぞれ提出された。右確認書には、「誤つて売価による評価をしたことから最終仕入評価額との差額分四四、〇四六、五四〇円」と記載されているが、右事実を記載した帳簿書類によれば、「品名七四LS三六五」の金額欄には二万七七五〇円と記載すべきを誤つて一万六七五〇円とし、かつ、右帳簿書類記載の品名に係る実地棚卸原票の合計金額を八七五〇万一三七七円とすべきを誤つて八七五〇万〇七七七円としてあつたので。右計算違いを訂正して、「誤つて売価をしたことから最終仕入評価との差額分」を四四〇三万六一四〇円(八七五〇万一三七七円から四三四六万五二三七円を控除した金額)の算出した。そこで、右金額に、確認書に重複計上したもの(一四九一万四六四一円)及び不良品相当分(二六一八万八四八一円)として記載されている各金額を加算した合計金額八五一三万九二六二円を前記材料部品の在庫の合計金額四億〇九四三万四五一二円から控除した金額三億二四二九万五二五〇円が、原告の期末材料部品の金額となる。
(五) 右(二)ないし(四)の金額を合計すると、原告の期末棚卸資産の合計額は五億三一二三万四二七五円となる。
3 右のとおり、原告の本件事業年度の所得金額は四億三八七八万七二一六円であるところ、本件更正のそれは四億三一五六万五六二四円であり、右主張額の範囲内であるから、本件更正は適法である。
4 本件更正により納付すべき税額八一一五万七七〇〇円のうち、原告の争わない重加算税額の計算の基礎とした納付すべき税額四四万四〇〇〇円を控除した税額八〇七一万三七〇〇円については、原告が法人税の確定申告を過少に行つていたことになるから、被告が国税通則法六五条一項の規定に基づき右税額(同法一一八条により一〇〇〇円未満の端数切捨て)に一〇〇分の五を乗じて計算した四〇三万五六〇〇円(同法一九条四項により一〇〇円未満の端数切捨て)の過少申告加算税の賦課決定を行つた本件決定は、適法である。
四 被告の主張に対する原告の認否
1 被告の主張1(一)は認める。同(二)は否認する。同(三)ないし(六)はいずれも認める。
2 同2(一)中その主張の各表を作成したことは認め、その余は否認する。同(二)は否認する。製品についての実地棚卸原票には不良品及び陳腐化して商品価値のなくなつたものが含まれている。但し、期末棚卸資産の評価方法につき被告の採用した売価還元法及び右数値八五パーセントが相当であることは認める。同(三)は認める。同(四)は否認する。材料部品についての実地棚卸原票(二八枚)には廃棄されるべきもの、陳腐化した製品にしか使用されない材料で他に転用できないもの及び重複して記載計上されているもの等が含まれている。また、原告が提出した確認書は、被告担当官の税務調査の際、申告棚卸金額が正しいことを原告代表者が説明したにもかかわらず同担当官はその大半を無視して、原告にこれを書かせたものであり、正確ではない。同(五)は争う。
3 同3は争う。
4 同4のうち、重加算税額の計算の基礎となる隠ぺい又は仮装に係る所得金額に対応する納付すべさ税額が四四万四〇〇〇円であることは認めるが、その余は争う。
五 原告の主張
1 棚卸しは元来商品等を棚から卸してその数量を実地調査し、品質を吟味し、その価額を評定することであり、数量面の把握に止まらず、破損、変質、陳腐化による使用不能等いやしくも期末において購入時より価値の減じたものがあれば、適正な評価をしなければならないものであるところ、次の(一)ないし(七)の諸事情に照らすと、原告の実地棚卸原票には<1>株式会社セガ・エンタープライセンス(以下「親会社」という。)が引取りを中止した流行遅れの製品、半製品、<2>親会社の生産中止又は仕様変更により半端物となつた材料部品、<3>当初から材料部品中に含まれている不適格品、<4>保管中に劣化し使用不能となつたもの、<5>親会社からの返品、<6>他社よりの預り品等が含まれており、右実地棚卸原票は正確なものではないのである。すなわち
(一) 原告は、当時、高度技術と精密な材料を必要とするインベーダーを生産していたが、自らこれを市場で販売することはせず、業界大手の企業たる親会社よりの受注生産をしていたものであつて、親会社が示す仕様により、その指示数量を生産していたのである。原告は、また、自社工場のほか、原告の材料支給による組立依頼の形態で、若干の孫請会社を使つていた。
(二) 当時インベーダーの生産に使用する材料は輸入ICを主軸とする特殊のものであり、これらは親会社からは現物支給されず、原告自ら調達していたが、特にICは静電気に弱いため調達品中には大量の不適格品が含まれており、輸入品のため修理もできず、勢い死蔵品として在庫化されることとなつていた。
(三) 親会社が発注するインベーダーは、その機種により著しく流行性のあるものであり、その需要は一過的で、あたかも台風が来てたちまち去るが如き需要状況であり、陳腐化する度合の極めて高いものである。また、親会社は、原告に発注した機種の販売にかげりが生ずるや、原告に対し生産中止を命じたり、仕様の変更を命ずるなど自らは危険を負わぬ方式をとるが、原告は親会社の指示した製品の数量により生産するため予めそれに見合う材料の購入を行つており、また、現に組立中のものもあり、孫請会社に対して組立手配中のものもあり、親会社に納入するまでの危険は一切原告が負担する実情にあつた。したがつて、一度親会社による生産中止指示があると輸入ICほか高価で膨大な材料部品はすべて使用不能となるが、これら部品は通常の価格で処分できないことはもちろんのこと、引取り手もなく、事実上スクラツプと化してしまうのである。当該機種の流行が復活する可能性はインベーダーについては絶無であり、これら材料部品を保有する意味はないから、これら部品は完全に無価値となる。生産中止の指示により親会社に納入できなくなつた製品や仕掛中の半製品も同様である。
(四) 棚卸しの実施にあたつては、その方法も十分考慮しなければならないところ、原告の棚卸しはわずか三日の間に生産活動を停止することなく限られた小人数で行つたものであるから数量そのものについて読み取つたメモの修正を要するものであること、品質の劣化、不要化による経済的価値喪失はその場において判断できないものであること、一見製品の外見をなしていても半製品、返品等を含んでいることなどからすれば、当然最終的に調整しなければ正確な棚卸資産の価値を把握することはできないものというべきである。
(五) ところで、被告は、実地棚卸原票が正確であると主張するが、その重複記載があつたことも被告自身認めているのであるから、同原票が修正を要するものであることは明らかである。
2 原告の確定申告は、税理士塩崎朝博の指導により以上の諸点を調整して作成した棚卸表(以下「申告分棚卸票」という。)に基づいて行つたものであつて、右棚卸表は正確なものである。
3 したがつて、原告の本件事業年度における所得金額は、申告所得金額二億三四二八万一八三六円に<1>損金と認められなかつた雑給一一一万円、<2>交際費のうち損金不算入額一七九万八九九〇円を加算し、<3>交際費損金不算入額の認容分一六三万一九〇七円、<4>未納事業税認容分一万二五〇四円を減算した二億三五五四万六四一五円であるというべきである。
六 原告の主張に対する被告の認否並びに反論
1 原告の主張1は争う。
一般に、企業が実地調査によつて棚卸金額を算定するにあたつてはその正確性を期するため担当者及び日時を特定し、更に地棚卸しの目的及び手順並びに作成する棚卸原票の様式等を明示して行うのが通例であるところ、原告の実施した棚卸しの作業状況からみると、以下に述べるとおり、原告の実地棚卸原票は正確なものと認められるのである。
(一) 棚卸表作成の指示等について
原告の経理部は、決算報告書を正確に作成し、適正な企業利益を把握するため、昭和五四年一〇月二五日ころ資材部等に対し本件事業年度の期末棚卸しの調査を命じ、この命を受けた資材部等が同月二七日ころから製品・商品及び材料部品等についての現品を確認した上でそれらの数量を把握し、実地棚卸原票を作成したのである。
(二) 製品の棚卸原票の作成経緯について
(1) 資材部の製品管理者等は、従前から製品出納簿を記帳し、廃棄した不良品や他社からの一時預り分については、保管場所をなるべく固定させ、更にその製品にメモを貼付するなどして原告所有の製品と明確に区分できるように管理していた。
(2) 資材部の製品棚卸担当者は、昭和五四年一〇月二九日から同月三一日(以下「決算期末」という。)にかけて、原告工場内の保管場所及び株式会社カネコ並びに大成倉庫株式会社(以下「倉庫業者」という。)に預けた製品について現品をカウントしてメモをとり、メモを基に製品の実地棚卸原票の項目品名・数量欄に記載した。
(3) 製品の実地棚卸原票の品名・数量と製品出納簿を資材部のベテラン担当者が数人立会いのもとに照合した。
(4) しかる後に製品の実地棚卸原票を経理部に提出した。
(三) 材料部品の実地棚卸原票の作成経緯について
資材部の材料部品棚卸担当者は、製品棚卸担当者と同様に経理部の指示に基づき、実施棚卸しを実施し、現品の品名・数量及び単価を記入した棚卸原票を作成し、これを経理部へ提出した。
以上の事実からすれば、製品及び材料部品の実地棚卸原票には、被告の主張2(三)で減額したものを除き原告の主張するような商品的価値のないものが含まれていないことは明白である。
2 同2は争う。
資材部等から製品・商品及び材料部品等の実地棚卸原票が昭和五四年一一月四日ころ経理部へ提出されてきたので、経理部では、右実地棚卸原票の評価額を製品・材料部品等の種類ごとに分類集計したうえで大略版棚卸表を作成し、それを基に代表取締役多田洲郷に報告したところ、同人から棚卸金額が多すぎるとして、再調査するようにとの指示がなされたのである。そこで、経理部は、資材部等に再調査を依頼したが、同部からは回答が得られなかつたため、経理部は、「会社利益を三億円と仮定した場合の税額」の表(以下「試算表」という。)を作成のうえ、右試算表の課税所得金額が三億三三三六万五〇〇〇円と算出されるよう期末棚卸金額を調整することとし、製品及び材料部品の数量を減じて計算し、その合計額を大略版棚卸表の評価額欄に記載し、これを期末棚卸金額とすることについて右代表者の承諾を得て申告棚卸金額として確定申告を行つたのである。
したがつて、申告分棚卸表記載の金額は措信できないことが明らかである。
3 同3は争う。
第三証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
理由
一 当事者に争いのない事実
請求原因1の事実(本件処分の経緯等)及び被告の主張1(一)、(三)ないし(六)の各事実(本件事業年度における原告の所得金額中期末棚卸資産の計上もれを除く部分)は、いずれも当事者に争いがない。
二 期末棚卸資産の計上もれについて
1 被告は、実地棚卸原票(乙第二号証の一ないし三〇)及び大略版棚卸表(乙第一号証)が原告の製品及び材料部品の期末棚卸金額を正確に記載したものであると主張し、他方、原告は、申告分棚卸表(甲第六号証の一ないし五〇)の記載が正確であると主張するので、まず、右各書面の信用性について検討する。
証人斉藤憲一、同藤野久夫(後記措信しない部分を除く。)の各証言、原告代表者本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)、成立に争いのない乙第四号証、原本の存在、成立ともに争いのない甲第一号証、第六号証の二六、三二ないし五〇、乙第一号証、第二号証の一ないし三〇、第三号証、証人藤野久夫の証言により原本の存在及び成立の真正が認められる甲第六号証の一ないし二五、二七ないし三一、証人中村友春の証言により真正に成立したものと認められる乙第五ないし一〇号証、第一四号証の一、証人斉藤憲一の証言により真正に成立したものと認められる乙第一一号証、証人鈴木徹の証言により真正に成立したものと認められる乙第一五、一六号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一四号証の二によれば、次の事実が認められる。
(一) 原告は、インベーダーゲーム機等電子機器の製造業を営んでいる会社であるが、原告代表取締役多田洲郷(以下「原告代表者」という。)は、昭和五四年九月末ころ本件事業年度の決算期を控え、当時社長室長であつた藤野久夫(以下「藤野」という。)に対し、期末棚卸資産の調査を実施するように命じたところ、同人は資材部の責任者である篠原英夫(以下「篠原」という。)、同鬼塚滋(以下「鬼塚」という。)、経理部の責任者である石地尚(以下「石地」という。)、同白木らと棚卸しの具体的方法について協議し、白木が同年一〇月二五日右協議の結果を「棚卸表の作成について」と題する書面(乙第三号証)にまとめ、これに基づいて棚卸資産の実地調査を行うこととし、そのころ右書面を原告の関係各部及び原告が製品等を預けている幸伸電機株式会社(以下「幸伸電機」という。)、富士電装、大宙エレクトロニクス、共栄電子(以上四社を総称して以下「協力会社」という。)に配付した。右書面の内容は、経理部から関係各部及び協力会社に対し、配付する用紙に棚卸しの結果を清書のうえ経理部まで提出すること及び棚卸表作成に際しては<1>製品、<2>半製品(内容を備考欄に記入)<3>仕掛品(完成度合を「償却其の他」の欄に記入)、<4>材料部品(新品と評価減のできる取りはずし品とは用紙を分ける)の区分毎に用紙を別にすること等を指示するものであつた。
(二) 原告の資材部は、同月二七日ころから製品についての実地棚卸しを開始し、当時の資材課長である岩村が会社内及び倉庫業者に保管中の現品をカウントしながらメモをとつたうえ、実地棚卸原票のうち製品棚卸表(乙第二号証の一)の「項目品名」及び「数量」欄を記入して同表を経理部に送付し、同部の中津尚文及び石地が同表の「単価」その他の欄を記載した。当時、篠原は、製品管理のために製品出納簿を作成し、製品の入出庫の都度その数量をこれに記載していた。また、同人は、有限会社シヨウエイ販売、株式会社シヨウエイリースなどの関連会社からの返品や預り品については、保管場所を固定させたり、製品にメモを貼付するなどして、他の製品と明確に区別できるようにしており、返品については、部品を交換すれば売り物になる製品はその交換をし、原告の資産となるもののみを製品出納簿に記載していた。調査を実施した岩村は、右一時預り分、返品のうち商品価値のないもの及び流行遅れのため廃棄処分の予定された製品については、これを実地棚卸原票に計上しなかつた。
材料部品については、資材部の飯田、鬼塚、徳田らが在庫の動きのないものは同月二七日ころから、動きのあるものは三一日に前同様の方法で実地調査を行い、これに基づいて実地棚卸原票のうち材料部品棚卸表(乙第二号証の三ないし二五)の「数量」欄を記入し、「単価」欄には期末あるいは期末に最も近い仕入れ金額(一部売価を記入したものが存するのは後記のとおりである。)を記載した。原告工場では材料部品に不良品が出た場合には、それが少量のときは鬼塚の独自の判断により、また、それがまとまつた量であるときは中条専務の指示により、それぞれ廃棄処分を行つていたので、飯田らは実地棚卸しに際し、右不良品は、これを計上しなかつた。
更に、協力会社も原告経理部の依頼により前同様実地棚卸しを行い、その結果を実地棚卸原票(乙第二号証の二六ないし三〇)等に記入のうえこれを経理部に送付した。経理部では、右作成にかかる実地棚卸原票(乙第二号証の一ないし三〇)等に基づいて製品、商品、材料部品毎に集計し、大略版棚卸表を作成した。
(三) 経理部の白木が同年一一月初めころ大略版棚卸表を示しながら原告代表者に実地棚卸しの結果についての報告を行つたところ、原告代表者は「こんなに多いのか。資材部は何をしていたのか。資材部にもう一度調べさせろ。」等と不満の意を表わし、資材部に対し再調査させるように指示したが、経理部は右指示に従わず、会社の利益を三億円と仮定した場合の税額を試算するなどしたうえ、経理部独自の判断で実地棚卸原票の数量を調整することとした。その方法としては、製品及び材料部品の一部(原告工場及び幸伸電機分)について、実地棚卸原票の数量が偶数のものはその半数、奇数であるものはその二分の一の整数部分に減じた申告分棚卸表(甲第六号証の一ないし三一)を作成して、その合計額を大略版棚卸表の評価額欄に記載し、これを期末棚卸金額とすることとし、かつ、そのようにすることについて原告代表者の承諾を得た。以上のような経緯により、原告は、右申告分棚卸表に基づき棚卸資産のうち商品を一二四六万五〇〇〇円、製品を五六五六万〇八三八円、材料部品を二億五八九六万七六〇〇円(合計三憶二七九九万三四三八円)として、本件事業年度の確定申告を行つた。
(四) もつとも、実地棚卸原票及び大略版棚卸表には次のような誤りが存する。すなわち、<1>製品については、集計を行う際に見落されたために、富士電装に対する預け在庫分八〇七万円が大略版棚卸表の合計金額に含まれていない。<2>商品については、実地棚卸原票の計算に一部誤りがあつたために、六万四七六三円が大略版棚卸表に過大計上されている(右事実は当事者間に争いがない。)。<3>材料部品の一部については、最終仕入原価によつて評価すべきところ誤つて売価による評価をしてしまつたために、最終仕入評価額との差額四四〇三万六一四〇円(算出根拠は別表二記載のとおりである。)が過大計上となつている。
以上の事実が認められ、証人藤野久夫の証言及び原告代表者本人尋問の結果中右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らし、にわかに措信することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
右認定事実によれば、実地棚卸原票及び大略版棚卸表(但し、評価額欄記載の部分を除く。)は、税務申告に利用することを前提とし、現実にされた実地棚卸しに基づいて記録、集計されたものであり、しかも、その作成手順については格別の作為も存しないものというべきであるから、その記載内容の一部には前記のとおり若干の誤りが存するものの、全体としては、原告の期末棚卸資産を正確に表現するものとして極めて信用性が高いものというべきである。他方、申告分棚卸表の作成経緯は、右に認定したとおり、経理部において原告代表者の指示を受け、再調査に基づかず、所得額を一定額とした場合の見込みによつて実地棚卸原票の数量部分を減額したもの(但し、富士電装、大宙エレクトロニクス及び共栄電子分については右のような作為を加えていないと推認されることは後記のとおりである。)であるから、このような申告分棚卸表は、原告の期末棚卸資産の計算根拠としてそのまま採用することができないものであることは明らかであるといわなければならない。
2 原告は、実地棚卸原票及び大略版棚卸表には、<1>親会社が引取りを中止した流行遅れの製品及び半製品、<2>親会社の生産中止又は仕様変更により半端物となつた材料部品、<3>当初からあるいは保管中に劣化した不適格品、<4>返品及び預り品等が含まれて計上されているから、右大略版棚卸表等は正確ではなく、右の諸点を調整して作成したのが申告分棚卸表であると主張するので、この点について検討する。
(一) 流行遅れあるいは半端物となつたことにより陳腐化した資産について
証人藤野久夫の証言及び原告代表者本人尋問の結果によれば、原告は本件事業年度ころは主に親会社の受注生産の方式でインベーダー等のゲーム機の製造にあたつていたこと、インベーダーは一般に流行性のものであつて需要が一過的であること、親会社は原告に発注後においても仕様の変更、生産の中止を命ずることがあつたこと、以上の事実が認められ、右認定事実よりすれば、原告においては、その業種の性質上ゲーム機以外の製造業を営む会社と比較して、より陳腐化した資産が生じやすく、これを在庫として抱え込むこととなるであろうことは想像に難くないというべきである。
しかしながら、本件棚卸しを実施するに際し、担当者が陳腐化した資産を評価の対象から除外したことは、前認定のとおりであり、このことは、実際に陳腐化した資産が存在しこれを計上したとするならば、後に評価換えを行う契機とするために備考欄等にその旨を記載するのが通常の経理の方法と考えられるところ、実地棚卸原票(乙第二号証の一ないし三〇)には当該資産が陳腐化した資産であることを窺わせる記載が全く存しないという事実によつても優に裏付けられるところというべきである。
原告は、実地棚卸原票から陳腐化した資産を除外したのが申告分棚卸表であると主張する。
しかしながら、<1>同一品名の製品の一部だけが流行遅れとなることは通常考えられないところ、実地棚卸原票である乙第二号証の一には項目品目「TWTC」の数量「四四八」、単価「二七万八四〇〇円」と記載されている一方、右製品の記載された申告分棚卸表である甲第六号証の二には数量「一六八」、単価「二七万八四〇〇円」と数量のみ減額して記載されており、項目品目「YGTC」、「TFLN」についても同様であるから、これらの製品についての実地棚卸原票の記載と申告分棚卸表の記載との差異が、陳腐化した資産を除外したことによるものとするのは不合理であること、<2>甲第六号証の二によれば、製品棚卸金額の合計は六六五四万二一六三円であり、これは乙第二号証の一の合計金額二億二〇七九万九一六三円の約三〇パーセントにしかならないものであるから、原告の主張によれば、約七〇パーセントの製品が陳腐化等により商品価値のない製品となつたことになるが、このようなことは、倒産しあるいは倒産直前の企業であればともかく、原告のように通常の企業活動を行つていた会社にあつては考えられないものであること、<3>同一品名の材料部品について、その一部のみが、しかも一定の割合によつて陳腐化するというようなことは通常考えられないところ、実地棚卸原票の乙第二号証の三ないし二五の記載と申告分棚卸表の甲第六号証の三ないし二五の記載とを対比すると、同一品名の材料部品について単価は同額でありながら後者の数量についてはほとんどが前者の約半数となつていること、<4>もともと陳腐化した資産の評価損については、法人がその確定した決算期において、当該資産の評価換えをして損金経理を行い、その帳簿価額を減額することにより損金算入するという方法が認められているものであるところ(法人税法三三条二項)、原告は右のような経理を全く行つていないこと等と諸事情にかんがみると、原告の陳腐化資産に関する主張は到底これを採用することができないものといわれなければならない。
(二) 不適格品について
材料部品の棚卸調査を実施した飯田、鬼塚らが不良品をカウントせず、これを棚卸資産に計上することをしなかつたことは、前認定のとおりであるから、不適格品に関する原告の主張は理由がないものというべきである。
(三) 返品及び預り品について
製品棚卸調査を実施した岩村が原告の資産とならない返品及び他社からの預り品を製品棚卸資産に計上しなかつたことは、前記認定事実から明らかであつて(なお、このことは、乙第二号証の一に「JPT、JPTⅡ上記二点は売掛金の肩替り回収として得意先から持込み分」と記載され、右二点が製品棚卸資産に計上されていないことからも肯認することができる。)返品及び預り品に関する原告の主張もまた理由がないものというべきである。
3 そこで、以下、原告の期末棚卸資産額について検討する。
(一) 製品についての期末棚卸金額 一億九四五三万八七八八円
原告の経理部係員が製品についての実地棚卸原票を集計するに際し、富士電装に対する製品の預け在庫分を見落したため、大略版棚卸表中電子機器の金額には右在庫分が含まれないこととなつたことは、前認定のとおりであるから、原告の本件事業年度末における在庫製品の売却予定価格は、前掲乙第一号証の右表示金額二億二〇七九万九一六三円と乙第二号証の二の価格合計八〇七万円を合算した二億二八八六万九一六三円となる。また、製品の期末棚卸資産の評価方法については売価還元法が相当であり、右数値が八五パーセントであることは、当事者間に争いがない。
よつて、原告の期末製品棚卸金額は、前記売却予定価格二億二八八六万九一六三円に〇・八五を乗じた一億九四五三万八七八八円となる。
(二) 商品についての期末棚卸金額 一二四〇万〇二三七円
原告の期末商品棚卸金額が一二四〇万〇二三七円であることは、当事者間に争いがない。
(三) 材料部品についての期末棚卸金額 三億二四三〇万四三四三円
(1) 原告工場及び幸伸電機への預け在庫分(実地棚卸原票分)
原告工場及び幸伸電機に対する預け保管中の材料部品の期末棚卸金額は、実地棚卸原票(乙第二号証の三ないし三〇)の価格欄を合計した三億七九三二万九五二六円から前記認定に係る過大計上分四四〇三万六一四〇円を差し引いた三億三五二九万三三八六円となる。また、右材料部品の合計金額から重複計上分一四九一万四六四一円及び不良品相当分二六一八万八四八一円を控除すべきことは、被告の自認するところである。よつて、原告工場及び幸伸電機に対する預け保管中の材料部品の期末棚卸金額は、二億九四一九万〇二六四円となる。
(2) 富士電装への預け在庫分
前掲乙第一号証及び甲第六号証の三八ないし四〇によれば、申告分棚卸表中富士電装分の合計金額は、大略版棚卸表中富士電装分表示金額とほぼ一致することが認められ、本件証拠上他に富士電装分材料部品の内訳を表示した証拠書類は存在しない。
そうすると、原告が本件期末において富士電装に対する預け保管中の材料部品の品目、数量及び最終仕入原価は、甲第六号証の三九及び四〇記載のとおりであると推認すべきである。そうすると、右各書証の価格欄記載の数字を合算すると三四九万三三八五円となる。
(3) 大宙エレクトロニクスに対する預け在庫分
前掲乙第一号証及び甲第六号証の三二ないし三七によれば、申告分棚卸表中大宙エレクトロニクス分の合計金額は、大略版棚卸表中大宙エレクトロニクス分表示金額とほぼ一致することが認められ、本件証拠上他に大宙エレクトロニクス分材料部品の内訳を表示した証拠書類は存在しない。
そうすると、原告が本件期末において 宙エレクトロニクスに対し預け保管中の材料部品の品目、数量及び最終仕入原価は、甲第六号証の三三ないし三七記載のとおりであると推認すべきである。そうすると、右各書証の価格欄記載の数字を合算すると一七四〇万五九五六円となる(甲第六号証の三四の小計額には二八万一一三七円と二八万一一三四円の二つの記載があるが、後者が正しいものと認める。)。
(4) 共栄電子への預け在庫分
前掲乙第一号証及び甲第六号証の四一ないし四八によれば、申告分棚卸表中の共栄電子分として記載された合計金額は、大略版棚卸表中の共栄電子分として表示された金額と必ずしも一致しないが、前掲乙第一五号証によれば、被告所部係官小口経雄が昭和五五年六月四日原告を税務調査した際、共栄電子への預け在庫として二九万四〇〇〇円の貯蔵品が存在する旨を記載した実地棚卸原票が存在した事実が認められ、右金額と申告分棚卸表中共栄電子分の合計金額を合算すると、大略版棚卸表中の共栄電子分として表示された金額とほぼ一致する。そして、本件証拠上他に共栄電子分材料部品の内訳を表示した証拠書類は存在しない。
そうすると、原告が本件期末において共栄電子に対し預け保管中の材料部品の内訳は、右貯蔵品を除くと甲第六号証の四二ないし四八記載のとおりであると推認すべきである。
したがつて、共栄電子分材料部品の期末棚卸金額は、右二九万四〇〇〇円に右書証の価格欄合計八九二万〇七三八円(甲第六号証の四四、四五、四六の小計額欄には異つた二つの金額記載があるが、いずれも後者が正しいものと認める。)を合算した九二一万四七三八円となる。
(5) よつて、原告の期末材料部品の棚卸金額は、右(1)ないし(4)を合算した三億二四三〇万四三四三円となる。
(四) 右によれば、原告の本件期末棚卸資産額は、(一)ないし(三)の金額を合計した五億三一二四万三三六八円となる。
4 したがつて、原告の本件事業年度における期末棚卸資産の計上もれは、右五億三一二四万三三六八円から前記認定に係る申告棚卸金額三億二七九九万三四三八円を差し引いた二億〇三二四万九九三〇円となる。
三 本件更正の適法性について
原告の本件事業年度における所得金額は、前記二億〇三二四万九九三〇円にいずれも損金と認められないこと当事者間に争いのない雑給一一一万円及び交際費一七九万八九九〇円を加算し、交際費の損金不算入額の認容額一六三万一九〇七円及び事業税損金算入額一万二五四〇円を減算した金額に申告所得金額二億三四二八万一八三六円を加算した四億三八七九万六三〇九円であるところ、本件更正の所得金額四億三一五六万五六二四円は右金額の範囲内であるから、本件更正は適法である。
四 本件決定の適法性について
原告の本件更正により納付すべき税額八一一五万七七〇〇円のうち、原告が争わない重加算税額の計算の基礎とした納付すべき税額四四万四〇〇〇円を控除した税額八〇七一万三七〇〇円については、原告が法人税の確定申告を過少に行つていたことになる。よつて、右税額(国税通則法一一八条により一〇〇〇円未満の端数切捨て)に同法六五条一項所定の一〇〇分の五を乗じて計算した四〇三万五六〇〇円(同法一九条四項により一〇〇円未満の端数切捨て)が過少申告加算税額となる。したがつて、本件決定は適法であるといわなければならない。
五 結論
よつて、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 宍戸達徳 裁判官 中込秀樹 裁判官 小磯武男)
別表 一
<省略>
別表 二
<省略>
<省略>
売価による評価額合計87,501,377円-正当評価額合計43,465,237円=44,036,140円(差額分)